ファンインペラの材料選定:PBT・PA66-GF・LCPの比較

ファンインペラに使うエンジニアリングプラスチックの主な候補は、ガラス繊維強化 PBT、ガラス繊維強化 PA66(PA66-GF)、LCP の三つです。いずれもインペラに使用できますが、湿潤環境、薄い羽根、金型内での挙動は異なります。本記事では購買担当者と設計者の視点で比較し、金型製作に入る前の材料選定に役立つ点を整理します。

東穎(Suzhou Dongying Electronic Technology Co., Ltd.)は、中国・蘇州で金型製作と射出成形を行っています。電子機器の冷却部品や自動車部品の金型・成形品を製作し、ファンインペラ、ファンフレーム、ベースも扱っています。工程全体については、冷却ファンインペラの射出成形:金型製作前に決めておくこと(英語)をご覧ください。

インペラ用 PBT・PA66-GF・LCP の比較

要点:PBT は寸法が安定しやすい汎用的な選択肢、PA66-GF は吸湿への配慮が必要な靭性の高い選択肢、LCP は非常に薄く剛性の高い羽根向けの材料です。

インペラ用 PBT・PA66-GF・LCP の比較
一般的な傾向(グレードによって異なる)ガラス繊維強化 PBTPA66-GFLCP
成形後の吸湿量少ない多い。部品が膨張し、軟化する非常に少ない
高温多湿での使用耐加水分解グレードを使わない場合、高温で加水分解のリスクがある耐熱性は良好。吸湿によって物性が変わる良好
薄い羽根への充填良好良好非常に良好
配向の影響ガラス繊維の配向が反りを生むガラス繊維の配向が反りを生む流動方向への配向が強く、ウェルドラインの強度が低い
成形前の乾燥必要必要必要。残留水分を非常に低くする
相対的な材料費低め低め〜中程度高め

これは一般的な傾向です。候補を絞ったら、使用するグレードのデータシートを確認してください。

ガラス繊維強化 PBT:寸法は安定しやすいが、湿熱に注意

要点:通常の室内環境で寸法安定性が必要なインペラには PBT が候補になります。高温多湿の条件では耐加水分解グレードを検討します。

PBT は吸水量が少ないため、季節による羽根寸法やバランスの変化を抑えやすい材料です。弱点は加水分解です。BASF は、水分が PBT を損傷して物性を変化させ、特に高温でその影響が大きくなると説明しています。このため、多くの自動車仕様では 85 °C、相対湿度 85% で試験を行います(BASF)。LANXESS によると、標準 PBT は約 60 °C までは十分な耐性がありますが、それを超える温度では安定化されていないグレードの衝撃強さや伸びが低下する場合があります(LANXESS)。耐加水分解(HR)グレードは、こうした条件に対応するためのものです。

金型内ではガラス繊維が流動方向に配向するため、流動方向の収縮は直角方向より小さくなります。ガラス繊維強化 PBT に関する販売代理店の技術解説では、この差を反りの主な原因として挙げています(Sales Plastics)。インペラでは、羽根の角度や羽根面の位置のばらつきとして現れます。

PA66-GF:靭性と耐熱性があるが、吸湿を見込む

要点:PA66-GF は靭性と耐熱性が必要な羽根に使えますが、成形後も吸水が続くため、寸法と剛性が時間とともに変わります。

DuPont のデータでは、非強化 PA66 の含水率は 23 °C、相対湿度 50% で約 2.5%、水中では約 7.5% に達します(DuPont Zytel ガイド)。DuPont の設計資料では、相対湿度 50% で吸湿した PA66 部品は寸法が約 0.6% 大きくなり、剛性と強度が下がる一方で靭性が高まると説明しています。この変化は緩やかで、可逆的です(DuPont 設計資料)。ガラス繊維はこの変化を小さくしますが、なくすことはできません。

成形直後の乾燥状態で測定したインペラは、実際の使用環境での状態とは異なります。寸法とバランスを成形後の乾燥状態で確認するのか、調湿後に確認するのか、両方で確認するのかを事前に決めておきます。ISO 1110 は、ポリアミド試験片を 70 °C、相対湿度 62% で加速調湿し、23 °C、相対湿度 50% での平衡状態に近い含水率にする方法を規定しています(ISO)。

LCP:非常に薄く剛性の高い羽根には、専用の金型設計を

要点:LCP は非常に薄い部分にも充填でき、吸水もわずかですが、強度は流動方向とウェルドラインに大きく左右されます。

Celanese の Vectra 設計ガイドによると、LCP は溶融状態と固体状態の両方で秩序のある分子構造を保ちます。このため、流動方向の剛性が高く、吸湿量と熱膨張が小さく、材料自体に難燃性があります。一般的な半結晶性樹脂よりも低い射出圧力で非常に薄い肉厚に充填でき、バリも生じにくい材料です(Celanese)。

物性は流動方向のほうが直角方向より大幅に高くなりますが、ガラス繊維や無機充填材でその差を小さくできます。ウェルドラインは弱点になります。Celanese はウェルドライン強度を改善するため、非常に速い射出を推奨しています。インペラでは、溶融樹脂が各羽根の根元から先端に沿って流れるゲート配置とし、羽根の根元にウェルドラインができないようにする必要があります。材料費も高いため、非常に薄く剛性の高い羽根が実際に必要な用途で検討します。

材料の選択で金型設計はどう変わるか

要点:収縮、ゲート、金型温度、ガス抜きはすべて材料によって変わります。金型設計の前にグレードを確定させます。

材料の選択で金型設計はどう変わるか
金型の検討項目材料による影響
キャビティの収縮補正収縮量はグレードごとに異なり、流動方向と直角方向でも差があります。後から材料を変えると金型修正が必要になる場合があります。
ゲートの位置と形式羽根内の繊維や分子の配向、およびウェルドラインの位置を決めます。
金型温度の制御結晶化度、表面、反りに影響します。推奨温度範囲はグレードごとに異なります。
羽根先端のガス抜きLCP など高速で充填する材料では、焼けやショートショットを防ぐために十分なガス抜きが必要です。
乾燥と材料の取り扱い水分を含む PBT や PA66 はシリンダー内で劣化します。LCP は残留水分を非常に低くする必要があります。

流動解析には実際に使うグレードを設定します。二つの材料で迷っている場合は、金型鋼材の加工に入る前に決定してください。

インペラ材料の見積依頼に必要な情報

要点:材料名だけでなく、使用条件と受入検査の方法を伝えてください。

  • 使用温度と湿度。仕様に高温高湿試験がある場合は、その条件も含めます。
  • 最高回転数、バランス要求、および乾燥状態と調湿後のどちらで検査するか。
  • 希望グレードまたは承認済みの代替材料(ブランドとグレード)、色、製品規格で必要な難燃等級。
  • 羽根の根元と先端の厚さ、およびシャフトや金属ハブなどのインサート。
  • 重要寸法と、その寸法を測定するときの含水状態。
  • 年間数量、および金型をお客様に引き渡すか、東穎に保管して成形品を供給するか。

冷却用インペラのサンプルやファンフレーム・カバーと併せて、検査と承認の進め方をご覧ください。

よくある質問

ファンインペラに最適な材料は何ですか?

すべてのファンインペラに最適な材料はありません。室内の電子機器用ファンで寸法安定性が必要なら、ガラス繊維強化 PBT が候補になります。PA66-GF は靭性と耐熱性が必要な羽根に向きますが、吸湿による寸法変化を見込む必要があります。LCP は、材料費が高くても非常に薄く剛性の高い羽根が必要な場合に向きます。使用温度、湿度、回転数、バランス要求を基にグレードを選び、お客様の試験計画で確認してください。

湿潤環境のインペラには PBT と PA66-GF のどちらが適していますか?

温度によって異なります。PBT は吸水量が少なく、湿潤な空気中でも寸法が安定しやすい材料ですが、標準 PBT は高温と高湿度が重なると加水分解する場合があります。そのため耐加水分解グレードがあります。PA66-GF は同じようには加水分解しませんが、吸水によって部品が膨張し、剛性が下がります。実際の湿度・温度試験条件で比較してください。

LCP インペラを選ぶ理由は何ですか?

羽根を非常に薄く、剛性の高いものにする必要がある場合、LCP は候補になります。薄い部分に充填しやすく、吸湿量が非常に少なく、熱膨張も小さい材料です。一方で、材料費が高く、流動方向の影響が大きく、ウェルドラインの強度が低いという点を考慮します。羽根に沿って樹脂が流れるようにゲートを配置し、羽根の根元にウェルドラインができないようにする必要があります。

PA66 の吸湿はインペラのバランスに影響しますか?

影響する場合があります。PA66 は吸水すると部品がわずかに膨張し、剛性が下がります。この変化は緩やかで、可逆的です。成形後の乾燥状態でバランスが取れていても、湿潤な空気中で数週間経つと状態が変わる場合があります。バランスと重要寸法を乾燥状態、調湿後、または両方で検査するかをサプライヤーと合意し、その条件を図面または検査計画に記載してください。

金型完成後にインペラの材料を変更できますか?

可能な場合もありますが、リスクがあります。キャビティは特定の材料の収縮を見込んで加工されており、別のグレードでは収縮量や方向が異なります。ゲート、ガス抜き、冷却も元の材料に適した設計になっている場合があります。変更にはトライ、成形条件の変更、金型修正が必要になることがあるため、金型製作前にグレード、少なくとも収縮特性が近い材料群を決めておくことを勧めます。

インペラ材料と金型を相談するには、何を送ればよいですか?

3D モデルと図面、使用温度と湿度、最高回転数、バランス要求と測定方法、希望または承認済みの材料グレード、必要な難燃等級、インサート、重要寸法、年間数量をご用意ください。金型をお客様に引き渡すか、東穎に保管して成形品を供給するかもお知らせください。これらの情報を基に、成形性と金型の進め方を検討できます。

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参考資料

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